
難波潟 短き葦の ふしのまも
あはでこの世を すぐしてよとや
作者:伊勢(いせ)
解説
「難波潟」は、大阪湾の入江付近です。
当時は、葦がたくさん群生していたようです。
この歌には、「秋ごろ、うたての人の物ひけるに」という詞書があります。
「うたての人」とは、つれない人のことで、「秋ごろ、つれない人がいたので」の意味の詞書です。
このため、藤原仲平(ふじわらのなかひら)と恋仲になり、やがて捨てられてしまった経緯があることから、藤原仲平に宛てた歌ではないかといわれています。
藤原仲平の、そっけない手紙に対する返歌だったという説もあります。
「葦の短い節と節の間くらいの時間さえ会ってくれないのはとてもひどいですね」という内容からは、怒りのような感情がうかがえます。
文法の意味と解説
※ 「難波潟 短き葦の」までが「ふしのま」を導く序詞になっています。
※ ふしのま
「葦の短い節と節の間」と「短いわずかな時間」の掛詞です。
※ あはで
「で」は、打消しの接続助詞で、(~ないで、~なくて)の意味になるので、「会わないで」の訳になります。
※ この世
「世」は、「世の中」の意味と「男女の仲」の2つの意味があります。
※ すぐしてよとや
「てよ」は、助動詞「つ」の命令形です。「と」は、引用を表す格助詞で、(~と、~と言って、~と思って)の意味になります。「や」は、疑問を表す助詞です。「とや」の後には、「言う」が省略されています。以上のことから、「過ごしてしまえ、とあなたは言うのですか」の意味になり、とても強く恋人に語りかけています。
<スポンサードリンク>